農畜産業というとアナログなイメージが強いですが、今やそうではありません。農家もICT、デジタル技術を積極的に活用する時代です。
ドローンやロボット、IoTの導入といった取り組みも進められていますが、もっと身近なところでは普段持っているスマホで動く「モバイルアプリ」があります。
農畜産業では細かい管理業務や報告業務が日々発生します。アナログな運用でそれらが行われている場合、とても手間がかかり負担になりますが、モバイルアプリを有効活用することで多くの業務が効率化されます。この記事では農畜産業を手助けする便利なモバイルアプリをいくつか紹介していきます。

農畜産業の現場では、作物や家畜の世話以外の、いわゆる管理業務が多く発生します。
どれも重要な業務なのですが、手間や時間がかかって負担になっている状態ならば、やり方を見直した方がよいかもしれません。
農畜産業の現場ではデジタル化があまり進んでいないという現状があり、いまだに紙の帳票、手書きのメモに頼って作業しているところも多いでしょう。しかし紙の運用だと、事務所など管理している場所に行かないと情報の記入・閲覧ができなかったり、別の紙に転記する手間や記載ミスが発生するなどデメリットが多く、効率的とはいえません。なるべく多くの管理業務をデジタルの力で効率化していくべきです。
日本の農業が置かれている現状は、従事者の高齢化が進行し、深刻な人手不足、後継者不足に見舞われています。一方で、農家は生産量のアップが求められています。つまり、今後は少人数で広大な農地をカバーする必要があり、デジタル化による業務効率化は必須ともいえるのです。
デジタル化といっても様々な機器やソフトがありますが、農畜産業における管理業務を効率化するために適しているのが「モバイルアプリ」です。モバイルアプリがおススメな理由を3つほどあげておきます。
まずはハード面です。年々進化を遂げているスマホは、コンパクトな端末に様々な機能を備えた高性能な機器です。農地や牧場といった環境では、パソコンだと大きくて作業の邪魔になりますが、スマホであれば持ち運びしやすいので最適です。農村でも通信エリアが広いのもメリットです。
※スマートフォン等の携帯電話については、5Gも含め、非居住エリアへの面的な通信インフラの整備に向けた取組が進められており、農村地域でも、これまで携帯電話の電波が入らなかったエリアでも通信サービスが享受できるようになっていくと考えらます。
続いてはソフト面です。チャットやメールでもスピーディーな情報のやり取りが可能ですが、専用のモバイルアプリを使うことにより、定型化されたデータが整理されて蓄積できることで、よりデータ共有が正確かつ後でデータを分析するにも便利になります。
そしてコストの安さも大きなメリットです。スマホをお使いの方は、ほとんどのアプリを無料で利用しているでしょう。専門性が高いアプリになると有料のものも多いですが、それでも新型の機械を導入するのに比べれば安価です。コストが安いため、すぐに試してみることができ、導入しやすいのも利点です。
現在iOS、Androidに対応した農畜産業向けのモバイルアプリが多数リリースされています。そのうちの一例をご紹介していきましょう。
「農林水産省まるみえアグリ」プロジェクトの一環として2017年6月にサービスを開始したアグミルは、農業経営を便利にする様々な機能がまとまったアプリです。ニュース、コミュニティ、資材購入から農薬辞典、作業管理などのほか、ドローンで撮った圃場の画像を分析してくれるサービスまであります。
AI(機械学習)を利用して、スマホで豚の写真を撮るだけで体重を推定してくれるアプリがデジタル目勘です。目勘といわれる、従来の目視による豚の体重推測は精度にバラつきも多く、かといって豚を体重計に載せるのも重労働でした。このアプリを使うことで誰でも簡単に熟練者レベルの目勘が可能になるということです。
「農薬調整支援アプリ」は、日本農薬株式会社がリリースしたアプリで、主要な農薬製品の混用事例の確認や、希釈倍数と散布液量などから必要な薬剤の量を算出できる機能を備えています。従来、混用事例は紙の表で確認が必要でしたが、このアプリを使えば、作物、薬剤、混用する薬剤をタップしていくだけで事例を確認することができるので便利です。
以上、タイプの異なるアプリを3つご紹介しました。もちろんこれら以外にも便利なアプリは沢山ありますので、活用できそうなものを探してみてください。
既存にリリースされているアプリも便利ですが、細かい運用にフィットしない場合もあります。自分の農場オリジナルの業務アプリを作って使うことでより一層便利になります。
しかし、業者に頼んでアプリを作成するのはお金や時間がかかります。そこで、「ノーコードツール」を使うのがポイントです。
ノーコードとは、プログラミング不要でドラッグ&ドロップといった操作で誰でも簡単にオリジナルアプリなどを作成できるサービスのことで、近年色々なツールが登場して話題を集めています。1からアプリを作成するスクラッチ開発に比べ、ノーコードツールはすでに開発済みのパーツを組み合わせて作成するため、スピーディーかつ低コストでアプリを作成することができます。
また、アプリを作るにあたってサーバー等の環境を用意する必要がないクラウド型のサービスが殆どで、利用料金も月単位で安価であることも特長です。
「Platio(プラティオ)」はプログラミング不要で、誰でも業務用モバイルアプリを作成できるノーコードツールです。現場に即した使い勝手がいいモバイルアプリの作成から活用、さらに修正や変更も簡単にでき、様々な現場の業務を効率化できます。農畜産業にも対応したアプリを含む100種類以上のテンプレートを備えており、自分たちの業務に合ったテンプレートを選んで少し変更を加えるだけでオリジナルアプリが完成します。
| 栽培日誌 | 圃場ごとに実施作業、作業時間、使用肥料・農薬を記録できます。栽培日誌を出荷先に提出する際、Excel形式でエクスポートできるため、時間も手間もかかりません |
|---|---|
| 農場エリアチェックリスト | 牛舎、農場、牛舎消毒施設など施設ごとの衛生点検項目を確認・記録するためのテンプレートです。紙での管理よりも簡単に記録でき、複数の従業員とリアルタイムでの情報共有が可能です |
| 電気柵点検 | イノシシやシカなどの害獣対策として電気柵を設置している方向けのテンプレートです。パワーユニットごとに稼働状況を点検し、正常に動作しているかを記録します。漏電の可能性がある場合も、情報をもとに迅速な点検・補修が行えるようになります |
| 栽培管理記録簿 | 圃場ごとに位置情報や作物名を登録し、播種から収穫までの農薬種別や濃度、肥料散布作業を記録できるテンプレートです。記録したデータはExcel形式でダウンロード可能なため、消費者や納品先から提出を求められた時も書類を簡単に作成できます農薬散布状況を記録 |
| 入出庫管理 | 製品などの情報を登録し、入出庫担当者が数量を登録することで在庫状況を自動集計できます |
| アルバイト勤怠管理 | 簡単な情報登録でアルバイトスタッフの勤怠情報を登録・管理できます。勤怠管理の仕組みを持たない小規模施設でのパートやアルバイト向けの出退勤をスマホで管理できます |
オフライン入力にも対応しており、作成したアプリは電波が届かない場所でも使えるので広い農場でも便利です。利用料金は月額2万円台からと安価で、専用のサーバーなどを準備する必要もありません。アプリを作成して、すぐに活用することができます。
ここからは、Platioを活用して農産業における課題解決や業務効率化を実現した事例をご紹介します。
つがる弘前農業協同組合様では、りんごを主体に年間約4〜5万トンの農作物を取り扱っています。同組合では7拠点の在庫報告を紙で行っており、手書きで販売在庫数を記録し、清書後に事務所へFAXで送付していました。しかし、この方法では手書きの手間や在庫数の把握に時間がかかるなど、管理面に課題を抱えていました。また、事務所では1日に最低20枚の報告用紙がFAXで届くため、手作業による集計の手間や、報告用紙を保管するスペースの確保が問題となっていました。
そこで、Platioで「りんご在庫管理アプリ」を作成し、一連の業務をスピーディーにデジタル化。各拠点の貯蔵庫から販売在庫数をアプリで報告できるようになったことで、毎日1時間かかっていた作業時間を削減し、年間約5,000枚のペーパレス化に成功しています。さらに、事務所で報告内容の一括集計が可能になり、取引先である市場にこれまでよりも3時間早く、正確なデータを提供できるようになりました。

事例の詳細は、こちらから。
八女茶スマート農業管理組合様は、安心安全なお茶を提供するために、GAP認証を取得しています。しかし、GAP認証を維持するために必要なお茶生産の管理や作業を紙ベースで記録していたため、非常に手間がかかっていました。
この課題を解決するため、作成したアプリを複数の企業・組織で活用できる「Platio One(プラティオワン)」を利用し、熊本県のシステムフォレスト社が提供する「栽培日誌アプリ」を導入しました。
「栽培日誌アプリ」導入後は、日頃から携帯しているスマホでどこでも、いつでもデータを見たり記録したりできるようになりました。紙ベースの運用から脱却したことで、生産管理業務の効率化を実現。インタビューをさせていただいた際には、「高品質なお茶づくりができるようになり、今後は茶市場とのトレーサビリティ情報をデータでやりとりするなど、情報を蓄積し、活用していきたい」と話してくださいました。

事例の詳細は、こちらから。
この記事では、農畜産業が抱える課題と、モバイルアプリを活用したデジタル化、効率化の必要性についてお伝えし、便利なモバイルアプリの例もいくつか紹介してまいりました。日本の農業の先行きを考えると、将来に渡ってずっと、このようなデジタル化の取り組みは必須になってくるといえるでしょう。
文中でも書きましたが、大掛かりな設備投資が必要なく、低コストで導入できるのがモバイルアプリの魅力の一つです。興味のあるアプリ、サービスがあったら、試してみてはいかがでしょうか。
福岡県八女市に拠点を置く八女茶スマート農業管理組合は、「栽培日誌アプリ」を導入し作業を効率化されています。本動画では3分ほどのインタビューを紹介します。