ビジネスシーンにおいて、コードを書かずにアプリを作成できる「ノーコード」への関心が世界的に高まってきており、有名企業も続々とノーコードサービスへの参入を表明しました。今やノーコードは一部のIT業界やエンジニアにとってのものだけではなく、一般のすべての企業が関心を寄せ、活用を試みる時代に入ろうとしています。ノーコードでは特にスマホやタブレットで動作するモバイル業務アプリを簡単かつ迅速に開発できるメリットがあるといわれていますが、なぜ今これほど注目されているでしょうか?ノーコードが企業に何をもたらすのでしょうか?この記事ではノーコードが注目されている背景にせまり、ノーコードがもたらす効果を紹介していきます。
ノーコードとはその名の通り、「コードを書かずにアプリが開発できる」ということです。これがもたらす最大の変革は、「エンジニアではない人でもアプリを作成できるようになる」ことです。
コードを書かずに具体的にどうやってアプリを作っていくかというと、各サービスによって違いはありますが、大まかには次のような流れになります。
特別な機材や環境を揃える必要はなく、ブラウザからインターネット上のサービスにログインするだけで申し込んだサービスをすぐに利用できることが多いです。
ノーコードでのアプリ作成手法は直観性を重視しており、難しい知識やコードを書く技術がなくても、少しの時間で誰でも操作をマスターし、アプリを完成させることができます。
今までアプリはコードを記述することによって成り立ち、そのスキルを持ったエンジニアにアプリ開発を委託するのが基本でした。それがノーコードによって、非エンジニア職でも自分たちの手によるアプリ作成が可能になったというわけです。このことによる効果として、アプリ開発のコストと納期の大幅な節約、短縮が見込まれます。
イニシャル(アプリ完成まで) | ランニング(メンテナンス) | |
---|---|---|
業者に一から開発を依頼 | アプリ開発:200万~ サーバー構築:20万~ 完成まで最低1ヵ月~ |
仕様変更、バグ修正:都度100万~ サーバー保守:3万/月 |
ノーコード | 2万~/月(Platioの場合) 完成まで最短10分 |
上記表は、企業が業務に使うモバイルアプリの開発を外部業者に委託した場合と、ノーコードを利用して自社で開発した場合のコストと時間を比較したものですが、ノーコードではエンジニアの人件費やアプリが動作するサーバー環境の構築といった要素が丸々削減されることで、劇的に時間とコストの節約になることが分かります。また、コードを用いず簡単に開発できることで、ミスやバグも減り、エンジニアによる癖など属人性が解消されることも特長です。
開発時間の圧倒的な短縮 |
開発コストの大幅な節約 |
高額な初期投資(サーバーサイド、DB、インフラ構築)が不要 |
属人性解消(エンジニア以外でも作れる、バグ発生が少ない) |
コードの記述が不要でアプリを開発できるノーコード自体は、呼び方は違えど10年以上昔からある技術で、とりわけ新しいものではありません。それが、なぜ今になって脚光を浴びているのでしょうか? ここではノーコードが今注目されている理由と背景についてみていきましょう。
まず初めに、ITエンジニアの不足があげられます。2016年6月に経済産業省が発表した予測によると、ITエンジニアは2030年までに約80万人不足するといわれています。つまり、コードを書いてプログラムを開発する人材が不足するということになります。
二点目ですが、経産省が2018年の秋に発表したDXレポートの中で警告して話題を呼んだ、「2025年の崖」です。前述したITエンジニア不足に加え、企業にとって負の遺産となるレガシーシステムに多くのコストがかかることで、新しい技術にITリソースを割くことができず競争力が低下、2025年以降毎年12兆円損失するという観測で、2年経った今でもそのインパクトは健在です。
2020年代に突入した今、この二点の問題に対処するタイムリミットが迫ってきています。企業にとっては、これらの大きな危機を乗り越える準備と対策が急務といえる時期でしょう。ノーコードが期待される背景が掴めてきたと思いますが、さらにもう一点、DXという視点を付け加えましょう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)では、すべての企業が、業務の現場にITを浸透させることが求められています。そのとき、果たして従来のエンジニア任せでのシステム、アプリ導入でよいのか?という点についてきちんと考える必要があります。エンジニアはコードを書ける=アプリを作れることは確かですが、必ずしも現場業務を理解しているとは限りません。多くの失敗例として、現場業務を理解していないエンジニアが作ったアプリを「入れただけ」の状態となり、実際に役立たないものになったり、現場に浸透しなかったりします。
そこで求められるのが、現場主導でのアプリを活用した業務改善や仕組み作りです。業務の理解や知見を持つ現場がアプリを作れれば、自分たちの業務にあったアプリなのでツールが浸透しやすくIT化はスムーズに進むでしょう。現場側は、今すぐに改善したい業務がどれか分かっています。エンジニアに依頼することなく、現場の人間がすぐにそれをITによって改善できる仕組みが必要であるといえます。
このような理由で、ノーコードが今注目されているというわけです。ノーコードならば、低コストかつコーディングといった専門知識は不要で、1日あればアプリが作れ、その日から業務を改善することも不可能ではありません。これからは「自分たちで作って自分たちで使う、アプリはDIYするのが当たり前の時代になる」といえるでしょう。
ここまでノーコードのメリットと、今注目されている背景・理由について説明してまいりました。ノーコードに求められている役割は現場主導でITを使った業務改善の支援であり、そのために、低コスト短納期でアプリを現場自らで作って使う(DIY)ことを可能にします。
ノーコードを使った現場主導のIT化は、すでに国内外で実践されています。最後に、2点ほど事例を紹介しましょう。
【ケース1】米国での事例 ニューヨーク市「僅か3日でコロナウイルスポータルを作成し配信」米国ニューヨーク市は、新型コロナウイルスの感染者や、その疑いがある市民が健康状態を登録するために使うオンラインポータルサービスを3月下旬に配信しましたが、その開発の際、コロナウイルスの感染拡大という緊急事態下において、一刻も早くアプリをリリースするために利用したのがノーコードでした。ドラッグアンドドロップのみで開発ができる、Unqork(アンコーク)というサービスを利用し、僅か3日という短時間で作成、配信することに成功したのです。
【ケース2】国内事例 京セラ「現場自ら、1日もかからずに棚卸しアプリを作り運用開始、在庫管理のスマート化を実現京セラ株式会社では、巨大な物流倉庫で毎日紙のリストをチェックすることで棚卸し作業を行っていましたが、紙の受け渡しのための往来に時間がかかるなど、改善の余地がありました。テクノロジーの導入を検討しようにも初期投資が発生することが課題でしたが、ノーコードで誰でも簡単にモバイルアプリが作れるPlatioを利用し、現場主導で棚卸しアプリを作成・導入したことで、作業の効率化に成功しました。アプリ作成を呼びかけたのは現場の新入社員であり、アプリの作成時間は1日もかからなかったそうです。現場自らがノーコードを活用してアプリをDIYした好例といえます。
2025年の崖を攻略するために今が正念場ともいえる現場業務のIT化ですが、もうエンジニアに頼っていては進まない時代になりました。エンジニア不足の現在、現場のIT化には現場業務の理解が必要なので、外部業者にアプリ開発を依頼する方法では、そのギャップを埋めるのはさらに大変になります。現場が主体的にIT化に向けて動くことが重要であり、それを支える技術がノーコードです。すでにノーコードを使って自らの手で劇的に早くアプリ作成を実現した事例も出てきています。これからは、より多くの企業がノーコードの活用を進めていくことが求められるでしょう。
様々な業務に適応し、現場ですぐに実現できるDXの実現法について、京セラ様の事例を交えて紹介します。京セラ様では、現場が自ら業務を効率化するために、短期間かつノーコードで簡単に自社専用のアプリを作成・活用することで、現場業務のデジタル化と業務プロセスの最適化を実現。現場主導でDXを促進したノウハウをご紹介します。